終戦60年企画 ドキュメンタリードラマ 望郷 2005年5月7日(土)午後9時〜10時29分

1945 年、軍医だった渡辺(関口知宏)は中国で敗戦を迎えソ連奥地のエラブカ収容所に抑留された。そこには2万人の日本兵より先にドイツ兵が収容されていた。その中のひとり、アナトリエ・アールヒップ(クリスティ・ポパ)という男と渡辺は言葉を交わすようになる。彼は、ドイツ軍の占領下にあってドイツ軍とともに参戦し捕虜になったルーマニア兵だった。このドラマではこのアールヒップが「望郷のバラード」という曲を伝えた人物として描かれている。ルーマニア人であるために辛い目に合わされていた彼と渡辺は親友になった。過酷な収容所の日々が続く。

翌年、アールヒップは奥地に分遺されることになる。そこに送られて生きて帰った者はいないという北の果てだった。渡辺は着ていた衣服、下着まで脱ぎ彼に与えた。そして、これで生き抜けと泣いた。アールヒップはそんな渡辺に隠し持っていた指輪を託した。「私には故国に婚約者がいる。お前は必ず生きて帰り、この指輪を私の婚約者に渡してくれ」そう言って彼は旅立った。

渡辺はそれから2年、指輪を自分の歯に糸で繋ぎ、口の中に隠し持つが、やがてソ連兵に没収されてしまう。そして1947年、日本に帰還。以来、失くした指輪のことを渡辺は片時も忘れなかった。

1989年、チャウシェスク政権が崩壊したルーマニアから突然、渡辺の元に手紙が届く。アールヒップからの手紙だった。生きていたのだ。そして、 2002年、56年の歳月の後、病身のアールヒップに会うために渡辺はルーマニアの地を踏んだ──。

脚本・演出:岡崎栄